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"かあーっこいいなぁー!"

地下鉄車内にて。向い側の席が空く。そこへ数メートル離れた場所から20前後のスーツの男が近寄るが、前に立っていたひとが座る。男「しまったなー」
その30秒ほどあと、自分の隣の席が空く。そこへさっきの男が座る。男「かあーっこいいなー!かあーっこいいっ!」 正直まいったなと思った。
男「かあっこいいなー、かあーっこいい!…アメリカみたいだもんなー…かっこいい。北斗の拳北斗の拳じゃないよ、北斗の拳じゃないよ(蒼天の拳の中吊り広告があった)。小室だよ、今日は小室だよ、竹橋じゃないよ。…アタタタタタ!北斗の拳じゃないよ。フランスみたいだよな…。(誰かの携帯が鳴った)静かにしなきゃだめでしょ(普通の声のトーンで)。小室だよ。今日は小室だよ…」 とくに大声で話すわけではなく、終始普通か小さめの声で、飴のフルーティな香りを漂わせながら喋っていた。
聞いたことのある言葉、見たことのある言葉、というのがひとの話す言葉の基本になるというようなことはよく言われるけれど、そっくりそのまま話されるということはあまりない。しかしある一部のひとたちは、聞いたことのある言葉をほとんどそのまま話すように思う。以前、これも地下鉄なんだけど窓際で延々と「ダメダダメダ、ダメダダメダ…」と繰り返すひとがいた。そのひとは普段からその言葉を聞いていたのかな、と勝手ながら想像する。なんだか少し辛いというか悲しい気持ちになったのを憶えている。
こういう前提意識で隣りの男の言葉を聞いていた。だからやはり、この男がその種のひとであるという意味で少しうーむ、という気持ちになった。それと同時に、その話に出てくる言葉から、いい育てかたされたんじゃないかなーと勝手な想像したりした。本当に勝手な想像だけど。たまたま電車内でネガティブな感情の発露になるような言葉を話すきっかけがなかったのかもしれない。いわゆる "普通のひと" 以上に辛いこともあっただろうし、悪い言葉を知らないということもないと思う。
なんとなくよかったなーという気持ちになった。こんなんでよかったなーという気持ちになってたら世話ねえなとは思う。でもまあなんかよかった。というか "かあーっこいいなぁー!" ていうのが本当に感情がこもってて関心してしまったというのが大きいかもしれん。いまどきこれほどまでにかっこいいと称えられるひとなんてそうそういないっていうくらい感情がこもってた。